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子どもに「忘れないで」と伝える前に|覚えることと、考え直すことを育てる家庭教育

  • 2026/10/09
  • 2026/10/04

「昨日も言ったよね」
「前に教えたでしょう」
「今度は忘れないでね」

子どもと暮らしていると、こんな言葉が出ることがあります。

忘れ物で困ってほしくない。何度も同じ失敗をしてほしくない。教えたことを、次は生かしてほしい。そう思うからこそ、親は「覚えておいて」と伝えるのだと思います。

覚えることは、もちろん大切です。ただ、何度伝えても同じことが続くとき、「もっとしっかり覚えさせる」ことだけで解決するのでしょうか。

覚えていることを、必要な場面で使う。うまくいかなかった方法を見直す。別のやり方を試してみる。家庭で育てたいのは、そうした力でもあるはずです。

外山滋比古さんの『思考の整理学』を読んだとき、私は、知識を蓄えることに目が向きやすい日々の関わりを、少し違う角度から考えるきっかけをもらいました。

脳を「倉庫」だけでなく、「工場」として考える

『思考の整理学』で私が共感したのは、知識を蓄えておくだけでなく、そこから自分の考えを生み出すことに目を向ける視点です。

「倉庫」と「工場」という言葉で考えると、その違いが分かりやすくなります。ここでは、私が読んで受け取った趣旨を、自分の言葉で紹介します。

倉庫には、たくさんのものを保管できます。しかし、保管しているだけでは、新しいものは生まれません。工場では、材料を選び、組み合わせ、手を加えることで、別のものを作っていきます。

知識についても、覚えている量だけでなく、何を取り出し、どう使い、どう考えるかが大切なのだと受け取りました。その中で、すべてをいつまでも保持しようとせず、忘れることや情報を整理することにも意味がある。この視点が、私には印象に残りました。

学校の勉強でも家庭生活でも、覚えておく必要のあることはたくさんあります。一方で、「覚えていたか」「忘れていなかったか」を確認する場面に比べて、「それを使ってどう考えたか」に目を向ける場面は、少なくなっていないでしょうか。

ここからは、書籍をきっかけに、私自身が家庭教育について考えたことです。

「覚えている」と「できる」の間を見る

たとえば、子どもが体操服を忘れたとします。

前の晩に「明日は体育があるからね」と伝え、子どもも「分かった」と答えていた。それなのに、朝になると持たずに出ていった。

親からすれば、「昨日言ったのに」と思う場面です。ただ、ここで確かめたいのは、言われたことを覚えていたかどうかだけではありません。

体育があることは分かっていても、朝の支度の中で体操服を思い出せなかったのかもしれません。準備しようと思ったところで別のことを始め、そのままになったのかもしれません。そもそも、いつ準備するかを決めていなかった可能性もあります。

どこで止まっていたかによって、次の工夫は変わります。

「今度は絶対に忘れないで」と伝えることに加えて、「どうしたら持っていけそうか」を一緒に考えてみる。ここに、覚えたことを実際の行動につなげる関わりがあります。

大人も、予定を覚えておくだけでは心もとないとき、カレンダーに書いたり、必要なものを玄関に置いたりします。子どもにも、思い出しやすくする方法や、動きやすくする準備が必要なことがあります。

教えた方法を、そのまま続けなくてもよい

たとえば、次のようなやり取りが考えられます。

「昨日は覚えていたけど、朝には忘れていたんだね。いつ準備するとやりやすそう?」

子どもが「夜に入れておく」と答えたら、まずはその方法を試してみる。うまくいかなければ、何が難しかったのかを見て、もう一度考える。

すぐに案が出ない場合は、親がいくつか選択肢を示してもよいでしょう。年齢や本人の様子によっては、一緒に準備するところから始める必要もあります。

大切なのは、親が教えた方法を覚え、その通りにできることだけを目標にしないことです。あくまでも親が教える方法は親の意見として伝え、何をするか決める余地は子どもに残しておきたいものです。

以前は「朝、時間割を見て準備する」で間に合っていても、学年が上がって持ち物が増えれば、夜に準備する方が合うかもしれません。「ここに置けば忘れない」と決めた場所も、本人が見ない場所なら変える必要があります。

一度決めた方法を見直すことは、教えたことを無駄にすることではありません。経験を使って、今の自分に合う方法を考えることです。

書籍を読んで感じた「蓄えるだけでなく、考えを生み出す」という視点は、家庭ではこうした場面にもつながると、私は考えています。

失敗から学んだことは残し、責めるやり取りは終える

忘れ物や失敗があったとき、必要な対応までなくしてよいわけではありません。困ったことを確認したり、誰かに迷惑をかけたなら謝ったり、次の準備を考えたりすることは大切です。

ただ、その対応が済んだあとも、別の場面で「あのときも忘れたよね」「あなたはいつもそう」と持ち出し続けると、次の工夫よりも、過去の失敗をめぐる言い争いに時間を使ってしまいます。

親も、何度も同じことが続けば腹が立ちます。心配して伝えてきたのに変わらなければ、強く言いたくなるのも自然なことです。

それでも、振り返りの中で残したいのは、具体的に役立つことです。

「朝は慌ただしいから、前の晩に準備するとよかった」
「困ったときは、黙っているより先生に伝えた方がよかった」

こうした経験は、次に使えます。一方で、「自分はいつもだめだ」という結論まで、子どもが抱え続ける必要はありません。

失敗をなかったことにするのではなく、必要な対応と振り返りを終えたら、次の行動に目を向ける。家庭の中に、その区切りがあってよいと思います。

嫌な記憶については、「忘れればよい」と考えない

ここまでの話と分けておきたいのが、子どもが嫌な出来事を繰り返し思い出す場合です。

支援の中では、物事をよく覚えているお子さんが、嫌だった場面や相手の言葉も細かく覚えていて、その記憶が次の場面への不安につながっているように見えることがあります。

これは支援での観察であり、「記憶力が高い子ほど不登校になりやすい」といった関係を示すものではありません。また、書籍で考えた知識の整理と、つらい記憶への対応を、同じものとして扱うこともできません。

たとえば、発表で笑われた経験を気にしているなら、今も同じことが起きそうな状況なのか、何を怖がっているのか、学校でどのような配慮ができるかを確認する必要があります。

「もう昔のことだから忘れよう」と切り替えを求める前に、今の困りごとを見る。忘れられたかどうかより、困ったときに伝えられる相手や、助けを求める方法があるかを考えたいところです。

つらさが強く、睡眠や日常生活にも影響している場合は、医療機関などへの相談も必要です。

家庭で育てたいのは、考え直せる力

「忘れないで」と伝えることを、すべてやめる必要はありません。安全に関わること、生活上の約束、学習に必要な知識など、覚えておいてほしいことはあります。

そのうえで、覚えていたかどうかの確認から、もう一歩先へ進めるとよいと思います。

覚えていたけれどできなかったなら、何が難しかったのか。前に教えた方法が合わなくなったなら、どう変えるか。失敗したなら、次に何を試すか。

こうしたやり取りには、自分の状況を振り返り、方法を選び、必要な助けを求める経験が含まれています。みちびきが大切にしている、子どもが自分と向き合い、問題に取り組む力にもつながる関わりです。

まずは、家庭で繰り返している一つの場面を思い浮かべてみてください。

毎朝の支度でも、宿題でも、持ち物の準備でも構いません。「何度も言っているのに」と感じているその場面で、子どもは何を覚えていて、どこから難しくなっているのでしょうか。

そこが見えると、次に伝える言葉や、手伝う範囲が変わるかもしれません。

同じ注意を繰り返してしまうときは

「強く言いたくないのに、毎日同じことで叱ってしまう」
「手伝いすぎなのか、まだ助けが必要なのか分からない」
「話し合おうとしても、子どもが落ち込んだり反発したりして、話が進まない」

こうしたときは、声かけの言葉だけを変えても、やり取りが変わらないことがあります。話すタイミング、親が担っていること、子どもに任せていること、その後の反応まで見ていく必要があるからです。

みちびきでは、家庭で実際に起きているやり取りを伺いながら、今の状況に合う対応を一緒に考えます。支援では、取り組んだあとの反応も確認し、必要に応じて関わり方を調整していきます。

初回無料相談は、60分程度の電話カウンセリングです。保護者の方だけでご相談いただけます。

「昨日、こんなことで言い合いになった」という一場面からでも構いません。うまく説明しようとしたり、相談前に原因を決めておいたりする必要はありません。

お話を伺い、みちびきでどのような支援ができるか、支援内容や費用も含めてご案内します。同じやり取りが続いていて、家庭だけでは対応を考えにくくなっているときに、ご利用ください。

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参考書籍:外山滋比古『思考の整理学』(筑摩書房)

※書籍についての記述は、筆者が読んで受け取った趣旨の紹介です。家庭での関わりへの応用は、筆者自身の考察です。

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Profile

佐藤 博

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)

15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)

家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。

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