母子登校から一人登校へ~親が「解決する役」から降りたときに起きた変化~
- 2026/06/09
- 2026/06/02

小学校に入学してしばらくすると、学校へ行き渋るようになった。
最初は少し付き添えば大丈夫だった。
それが下駄箱までになり、昇降口までになり、気づけば教室まで一緒に行かなければならなくなっていた。
母子登校のご相談を受けると、このような経過をたどっているご家庭は少なくありません。今回ご紹介するのは、小学校入学後に母子登校が始まり、その後一人で登校できるようになったご家庭の事例です。
ただ、この事例でお伝えしたいのは「こうしたら一人で行けるようになりました」という方法論ではありません。支援の中で見えてきたのは、母子登校そのものではなく、家庭の中で起きていた変化でした。
※個人が特定されないよう、一部内容を変更しています。
ご相談時の状況
お子さんは小学校へ入学して間もなく、学校への不安が強くなり、母子登校が始まりました。
きっかけの一つは担任の先生との関わりでした。先生が特別厳しかったわけではありません。
ただ、お子さんにとっては、
「先生に注意されたらどうしよう」
「失敗したら怒られるかもしれない」
「ちゃんとできなかったらどうしよう」
という不安が少しずつ大きくなっていました。
真面目で頑張り屋の子どもほど、大人から見れば何気ない言葉や出来事を強く受け止めることがあります。
また、小学校入学直後は保育園や幼稚園とは環境が大きく変わります。
時間割に合わせて行動すること。
先生の指示を聞いて動くこと。
自分のことを自分ですること。
そうした変化に適応しようと頑張る中で、お子さんの中には緊張や不安が少しずつ積み重なっていきました。最初は下駄箱までの付き添いでしたが、やがて昇降口まで、教室前までと付き添いの範囲が広がっていきました。お母さんがそばにいると安心できる一方で、離れると強い不安が出てしまう。
そんな状態が少しずつ強くなっていたのです。
学校へ行けていないわけではありません。むしろ毎日登校しようと頑張っていました。ただ、その頑張りを支えていたのは自分の力というより、「お母さんが一緒にいてくれる安心感」でした。
お母さん自身も、
「このまま付き添い続けていいのだろうか」
「いつになったら一人で行けるようになるのだろうか」
という不安を抱えていました。
毎朝の登校が親子にとって大きな課題になり、家庭全体がその問題を中心に回り始めていました。
当時の家庭で起きていたこと
お話を伺っていると、お母さんは娘さんのことを本当によく考えておられました。
不安にならないように。
困らないように。
傷つかないように。
できる限り支えてあげたい。
そんな思いが強くありました。
ただ、その優しさが積み重なる中で、家庭の中にはある流れができていました。
娘さんが困ると、お母さんが解決策を考える。そして娘さんはその提案を受ける。また困ることが起きると、お母さんが解決する。
もちろん、これは悪いことではありません。
多くの親御さんが自然に行っていることです。
ただ、この流れが続くと、子ども自身が考える機会や試行錯誤する機会が少しずつ減っていきます。
その結果、「どうしたらいいか分からない」ではなく、「お母さんに聞こう」が先に出てくるようになります。気づかないうちに、親が考える人、子どもが答えを受け取る人という役割が家庭の中で出来上がっていたのです。
支援で見えてきたこと
支援の中で見えてきたのは、母子登校そのものが問題なのではなく、親子の役割が固定化していたことでした。
お母さんは解決する人。
娘さんは助けてもらう人。
その形が強くなればなるほど、娘さんは不安な場面で自分で考える機会を失いやすくなります。
そしてお母さんも、
「私が何とかしなければ」
という責任感を抱え続けることになります。
最初に取り組んだこと
支援で最初に行ったのは、登校刺激ではありませんでした。
まず取り組んだのは、お母さんの関わり方を整理することです。
それまで、
「こうしたら?」
「こうした方がいいんじゃない?」
と解決策を提示することが多かった場面を、
「どうしたらいいと思う?」
「あなたはどうしたい?」
という関わりへ少しずつ変えていきました。
もちろん、最初からうまくいくわけではありません。
子どもがすぐに答えられないこともありますし、親としては口を出したくなることもあります。それでも、考える時間を待つこと、自分で決める機会を作ること、小さな失敗を経験することを大切にしていきました。
少しずつ起きた変化
最初に変わったのは登校ではありませんでした。
家庭の会話でした。お母さんがすぐに答えを出さなくなったことで、娘さん自身が考える時間が増えていきました。困ったことがあったときも、「どうしたらいいかな」と自分なりに考えようとする姿が少しずつ見られるようになりました。
家庭の中での小さな変化が積み重なるにつれて、登校場面にも変化が現れ始めます。教室までの付き添いが下駄箱までになり、下駄箱だったものが校門までになり、少しずつ距離を取れるようになっていきました。
順調だったわけではない
もちろん一直線ではありません。
うまくいく日もあれば、元に戻る日もあります。
調子が良い週もあれば、不安が強くなる週もあります。母子登校の支援では、この「波」が当たり前です。だからこそ、今日できたかどうかだけで判断しないことが大切になります。
支援の中でも、登校できたかどうかではなく、家庭の中でどんな変化が起きているかを一緒に確認していきました。
現在の様子
現在は、一人で学校へ通えるようになっています。
ただ、学校が毎日楽しいわけではありません。困ることもあります。不安になることもあります。それでも、自分なりに考えたり、親に相談したりしながら過ごせるようになっています。
私はここが一番大切な変化だと思っています。
学校が好きになることがゴールではありません。
困ったときに、自分で考えたり、必要な人に助けを求めたりできること。それが子どもの自立につながっていくからです。
非認知能力の視点で見ると
この事例では、母子登校が解消したことだけが変化ではありません。
その過程で、
- 自分で考える力
- 自分で決める力
- 助けを求める力
が少しずつ育っていきました。
みちびきでは、これらを非認知能力の成長として捉えています。学校へ行けるようになることは結果です。
その土台には、こうした力の積み重ねがあります。
支援者として感じたこと
母子登校のご相談では、「どうしたら一人で行けますか」という質問をよくいただきます。
でも実際には、母子登校を終わらせようとすることより、家庭の関わり方を整えることの方が重要な場合があります。親が解決し続ける家庭から、子どもが考え、挑戦し、相談できる家庭へ。
その変化が、結果として一人登校につながることは少なくありません。このご家庭は、そのことを改めて教えてくれた事例でした。
みちびきの支援について
みちびきでは、母子登校や行き渋り、不登校についてのご相談をお受けしています。
支援の中で最初に行うのは、「今何が起きているのか」を整理することです。
子どもの様子だけを見るのではなく、
・子どもは何に不安を感じているのか
・親はどんな思いで関わっているのか
・家庭の中でどんなやり取りが繰り返されているのか
を一緒に整理していきます。
その上で、日々の会話や関わり方を具体的に見直していきます。
例えば、
「どう声をかけたらいいのか」
「どこまで手伝うべきなのか」
「どこから子ども自身に任せるのか」
といったことを、そのご家庭の状況に合わせて一緒に考えていきます。
みちびきでは、学校へ行かせることだけを目標にはしていません。子どもが自分で考え、自分で選び、必要なときに助けを求められること。そして親が一人で抱え込まず、家庭全体が自走できる状態を目指しています。
母子登校は、子どもだけの問題ではなく、家庭全体の関わり方が影響していることも少なくありません。
「このままでいいのかな」
「うちも同じ構造かもしれない」
そう感じた方は、一度状況を整理してみませんか。
まとめ
母子登校が続くのは、子どもの甘えでも親の失敗でもありません。
子どもの不安と、何とかしてあげたい親の思いが重なった結果として起きていることが多いのです。このご家庭が変わったきっかけは、特別な方法ではありませんでした。親が「解決する役」から少しずつ降りていったこと。
そして子どもが、自分で考え、自分で動く経験を積み重ねていったこと。
その積み重ねが、結果として一人登校につながっていきました。
プロフィール

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)
15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)
家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。











