「朝の支度に1時間かかる」「何度言っても直らない」──発達特性のある子に見られる”日常の困りごと”と家庭でできる関わり方
- 2025/11/14
- 2025/11/06

導入:多くの家庭が抱える”朝の小さな悩み”
「何度声をかけても動かない」
「忘れ物ばかりで、毎朝学校に届けている」
「着替えが終わらず、気づいたら1時間経っている」
こうした”朝の小さな悩み”を抱えている家庭は、実は少なくありません。
「うちの子、やる気がないのかな」「甘えているだけ?」——そう思ってしまうこともあるでしょう。しかし、それは”怠け”や”甘え”ではなく、発達特性が影響しているつまずきかもしれません。
最近では、医療的な診断を受けていないものの、特性による困りごとを抱える「グレーゾーン」と呼ばれる子も増えています。診断の有無に関わらず、家庭での関わり方が大きく変化を生むことが分かっています。
この記事では、発達特性のある子に見られる日常の困りごとと、家庭でできる具体的な支援・声かけ方法を解説します。
発達特性とは?医療診断とは別の”傾向”として理解する
「発達障害」という言葉には、どうしても抵抗を感じる親御さんも多いでしょう。
診断を受けることへの不安、周囲の目、将来への心配——さまざまな感情が入り混じります。
しかし、ここで大切なのは、診断ではなく、”特性”として理解する視点です。
発達特性とは、脳の働き方や情報処理の仕方に個人差があることを指します。それ自体は「異常」ではなく、「個性の一つ」として捉えることができます。
代表的な3つの傾向
発達特性は大きく分けて、以下の3つの傾向に分類されます。
1. 注意の切り替えが苦手(ADHD傾向)
- 一つのことに集中しすぎて、次の行動に移れない
- 逆に、注意が散りやすく、すぐに別のことに気を取られる
- 時間の感覚が掴みにくい
2. 予定変更が苦手・こだわりが強い(ASD傾向)
- いつもと違う手順や流れに強い抵抗を示す
- 特定のものや行動に強いこだわりを持つ
- 暗黙のルールや人の気持ちを読み取るのが難しい
3. 書く・読む・聞くなどの一部が苦手(LD傾向)
- 文字を書くのに時間がかかる、読むのが遅い
- 聞いた情報を覚えておくのが難しい
- 計算や図形の理解に偏りがある
医療ではなく家庭教育の視点で見たとき、環境と関わりで力を伸ばせる。
診断があってもなくても、日常の困りごとに対して家庭でできることはたくさんあります。
よくある”日常の困りごと”と背景メカニズム
発達特性のある子が抱える困りごとは、一見すると「やる気がない」「わざとやっている」ように見えることがあります。
しかし、その背景には、脳の情報処理の仕方や注意のコントロールに関わる特性が隠れています。
| 困りごと | 背景にある特性 | 親が誤解しやすい点 |
|---|---|---|
| 朝の支度に1時間以上かかる | 注意が散りやすい・切り替えが苦手 | 「やる気がない」と思ってしまう |
| 注意しても同じことを繰り返す | ワーキングメモリ(作業記憶)が弱い | 「わざとやっている」と感じてしまう |
| 学校で浮いてしまう | 社会的理解が難しい・感情調整が苦手 | 「友達付き合いが下手」と捉えてしまう |
| 忘れ物が多い | 記憶を保持するのが難しい・優先順位がつけられない | 「不注意」「だらしない」と叱ってしまう |
| 宿題に取りかかれない | 課題を細分化できない・始め方が分からない | 「やりたくないだけ」と解釈してしまう |
| 癇癪を起こす | 感情のコントロールが未熟・言葉で表現できない | 「わがまま」「しつけの問題」と思ってしまう |
このように、行動の背景にある特性を理解することが、適切な関わり方の第一歩です。
家庭でできる3つの関わり方
発達特性のある子どもへの関わり方は、「もっと頑張らせる」ことではありません。
環境を整え、言葉を変え、小さな成功を積み重ねる——この3つが基本です。
1️⃣ 環境を整える
声かけを増やす前に、まず「構造化」から始めましょう。
構造化とは、子どもが「何を」「いつ」「どの順番で」やればいいのかを、視覚的に分かりやすくすることです。
具体的な工夫
- 朝の支度チェックリストを壁に貼る
- 例:①着替える ②顔を洗う ③朝ごはん ④歯磨き ⑤ランドセル確認
- できたら□にチェックを入れる
- 時間を視覚化する
- タイムタイマー(残り時間が色で分かる時計)を使う
- 「あと5分」ではなく、「赤い部分がゼロになったら出発だよ」
- 持ち物の定位置を決める
- ランドセル、帽子、水筒の置き場所をマスキングテープで囲む
- 「ここに戻す」が明確だと、忘れ物が減る
ポイント:声かけよりも「見て理解できる」工夫が先です。
2️⃣ 言葉かけを変える
発達特性のある子には、「なぜできないの?」という問いかけは逆効果になることがあります。
なぜなら、本人も「なぜできないのか分からない」からです。
NG → OK の言い換え例
| NG(誤解を生む言葉) | OK(行動を引き出す言葉) |
|---|---|
| 「なんでできないの?」 | 「どうしたらできそう?」 |
| 「さっき言ったよね?」 | 「もう一度確認しようか」 |
| 「ちゃんとしなさい」 | 「まず、これだけやってみよう」 |
| 「いつもそうだよね」 | 「今日はどこまでできそう?」 |
| 「早くして!」 | 「あと3つで終わりだね」 |
行動の”仕組み”を一緒に考えることが、自分と向き合う力(非認知能力)を育てる第一歩です。
3️⃣ 小さな成功を積み上げる
発達特性のある子は、失敗体験が積み重なりやすく、自己肯定感が下がりがちです。
だからこそ、「できた」を具体的に認めることが重要です。
効果的な褒め方
- 具体的に褒める
- ×「えらいね」
- ○「5分早く準備できたね!すごい!」
- プロセスを褒める
- ×「100点取ったね」
- ○「毎日コツコツ練習したからだね」
- 部分強化を意識
- 毎回褒めるのではなく、時々褒める方が行動が定着しやすい
- 「今日はこれができたね」と、その日の成功を拾う
ポイント:行動変化を強化する「部分強化」を意識すると、長期的に効果が持続します。
発達特性がある子の”非認知能力”の伸ばし方
「発達特性がある=できない」ではありません。
適切な環境と関わり方があれば、非認知能力(学力以外の、人生を支える力)を伸ばすことができます。
🔴 自分を高める力:集中を切らさず工夫する
- タイマーを使って「集中タイム」を設定
- 5分だけ集中→休憩→また5分
- 短い集中を繰り返すことで、持続力が育つ
- 得意なことから始める
- 苦手な課題の前に、得意なことで「できた感覚」を作る
🔵 自分と向き合う力:失敗しても立て直す力
- 「失敗=学び」という捉え方を伝える
- 「今日はうまくいかなかったね。次は何を変えてみる?」
- 感情の言語化を手伝う
- 「今、イライラしてる?」「ちょっと疲れた感じ?」
- 感情に名前をつけることで、コントロールしやすくなる
🟢 他者とつながる力:感情を伝え、助けを求める力
- 「助けて」と言う練習
- 「困ったときは『手伝って』って言っていいんだよ」
- 助けを求めることは、弱さではなく「スキル」
- 「ありがとう」を伝える経験
- 人に助けてもらったら「ありがとう」を言う
- 人とのつながりが、自己肯定感を育てる
「特性=できない」ではなく、「特性×環境」で力が伸びる——この希望を、親子で共有しましょう。
よくある親の悩みQ&A
Q1. 「発達障害ではないのに支援してもいいの?」
A. はい、全く問題ありません。
診断の有無に関わらず、“困りごと”があるなら家庭での関わりが鍵です。
グレーゾーンの子も、環境や関わり方次第で大きく変化します。診断がないからといって、支援を躊躇する必要はありません。
Q2. 「専門機関に相談するべきタイミングは?」
A. 以下のような場合は、専門相談の併用をお勧めします。
- 家庭で工夫しても、日常生活に支障が続く
- 学校から頻繁に連絡がくる
- 本人が強い不安やストレスを抱えている
- 親自身が疲弊してしまっている
専門機関(児童発達支援センター、発達相談、スクールカウンセラーなど)は、家庭のサポーターです。一人で抱え込まず、早めに相談しましょう。
Q3. 「きょうだいがいると、一人だけ特別扱いできません」
A. 「特別扱い」ではなく「必要な配慮」と捉え直しましょう。
他のきょうだいには、年齢に応じて説明することも大切です。
「○○ちゃんには、こういうサポートが必要なんだよ。あなたにも、必要なときには手伝うからね」
公平≠平等。それぞれに合った関わり方をすることが、本当の公平です。
Q4. 「学校が理解してくれない場合はどうすればいいですか?」
A. まずは、具体的な困りごとと家庭での工夫を共有しましょう。
連絡帳やメールで、以下のような内容を伝えます。
いつもお世話になっております。
家庭では、朝の支度を視覚的なチェックリストで進めており、
少しずつ自分でできるようになってきています。
学校でも、口頭の指示だけでなく、
視覚的な情報(板書・プリント・絵カードなど)があると
理解しやすいようです。
ご負担をおかけしますが、ご協力いただけますと幸いです。
それでも難しい場合は、スクールカウンセラーや特別支援コーディネーターに相談しましょう。
Q5. 「夫婦で方針が合いません」
A. 家族会議を開き、以下の3点を共有しましょう。
- 現状の困りごと(例:朝の支度に1時間かかり、親子でストレス)
- 目指すゴール(例:子どもが自分で準備できるようになる)
- 具体的な方法(例:チェックリストを使う、褒め方を変える)
感情論ではなく、事実とステップを共有することで、合意が得やすくなります。
まとめ:発達特性があっても家庭教育で伸びる力
家庭は、子どもの「最初の社会」です。
ここで安心して過ごせるか、自分を認めてもらえるかが、子どもの自己肯定感と非認知能力の土台になります。
発達特性のある子にとって、家庭は特性を”個性”として支える環境づくりの場です。
「できない」を「できるようになる道の途中」として見守ること——それが、将来の自立につながります。
家庭でできる3つの関わり方(まとめ)
- 環境を整える:視覚化・構造化で「見て分かる」工夫を
- 言葉かけを変える:「なぜ?」ではなく「どうしたら?」
- 小さな成功を積み上げる:具体的に褒め、プロセスを認める
今日からできる小さな一歩が、子どもの大きな変化につながります。
みちびきでは、発達特性やグレーゾーンのお子さんを家庭教育の視点から支援しています。
「うちの子の困りごと、どう対応したらいいかわからない…」という方は、まずはお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
👉https://www.michibiki-support.com/contact/
この記事が、あなたとお子さんの”困りごと”を”成長のきっかけ”に変える第一歩になれば幸いです。
プロフィール

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)
15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)
家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。











