不登校の「学校に行きたくない」を目的論で読み解く——アドラー心理学×非認知能力で“次の一手”が見える
- 2026/02/06
- 2026/02/06

不登校や母子登校の相談で、親御さんが最も消耗しやすいのが「原因探し」です。
もちろん、原因の把握は必要です。ただ、原因だけを追い続けると、「なるほど」と理解できても、家庭で何をどう変えればいいかが具体化されないままになりやすい。そこで有効になる整理の軸が、アドラー心理学で語られる目的論(teleology)です。
この記事では、
🔴 目的論とは何か(原因論との違い)
🔴 不登校の「休む」という行動が果たしやすい“機能(目的)”
🔴 目的論の次に、なぜ「非認知能力(社会情動スキル)」が効くのか
を、家庭での対応に合う形でまとめます。
目的論とは何か:原因論との違いを整理する
原因論:過去の出来事が「今」を決める
原因論は「学校に行けないのは、〇〇が原因だから」という見方です。
いじめ、先生との不和、学業不振、発達特性、体調、家庭内の出来事——原因の特定は、危険の回避や環境調整に役立ちます。
一方で、原因論だけで進めると、支援が「原因が解消されるまで動けない」という形になり、長期化のループに入りやすいことがあります。
目的論:行動や感情は「目的(機能)」に向かっている
目的論(teleology)は、心理学領域では「心的過程や行動は目的(ゴール)に向かう=目的志向である」という捉え方です。
アドラー心理学は、この“目的志向”の理解を重視し、「人の行動や症状は、今ここで何かを達成している(何かを避けている)」と考えます。
原因がわかっても、タイムマシンがない限り解決できない。でも、目的がわかれば『今この瞬間』から対応を変えられるという考えです。
ここで注意点があります。
目的論は「子どもがズルをしている」「わざと困らせている」という意味ではありません。
本人が意図的に言語化できなくても、行動が結果として果たしている機能(苦痛を下げる、安心を確保する、評価から退避する等)に注目する視点です。
不登校の「休む」は、どんな“目的(機能)”を果たしやすいか
不登校の「学校に行きたくない/休む」は、理由が一つであることは少なく、複数の機能が重なっていることが多いです。目的論の整理では、まず次の代表パターンを“仮説”として置きます。
目的① 苦痛の回避(不安・恥・失敗・刺激)
学校が「不安」「恥」「失敗」「強い刺激(音・人・予定変更など)」を呼びやすい場面になっているとき、休むことで苦痛が下がります。
この「休む→楽になる」は、自然に行動が固定化しやすい構造です。だからこそ必要なのは、気合いで押すことではなく、家庭と学校で“前に進むための仕組み”を設計することです。
観察ポイント
🔴 特定の教科・先生・場面(発表、体育、給食など)で悪化しやすい
🔴 前夜〜朝に強く、休むと落ち着く(腹痛・頭痛など含む)
次の一手(方向性)
🔵 刺激量を下げる(別室・保健室・短時間など)
🔵 段階設計で成功単位を小さくする(5分→1コマ…)
🔵 見通し・逃げ道を事前に合意する
目的② 安全・安心の確保(「休むと安心が増える」)
「安心が確保できるか」が行動を左右しているケースがあります。休むと、親の関与や家庭の落ち着きによって安心が増え、同時に学校での不安や刺激といった苦痛が減るため、休む選択が自然と選ばれやすくなります。
観察ポイント
🔴 親が近い/見通し・逃げ道があると動きやすい
🔴 休んだ日は親の関与が増え、通常日との差が大きい
次の一手(方向性)
🔵 安心の提供を「休む/休まない」で増減させない(平準化)
🔵 家庭の対応(連絡、迎え、休む日の過ごし方)をルール化する
🔵 安心の条件を学校側にも広げる(別室・短時間・連絡ルール等)
目的③ 自尊心の防衛(比較・評価からの退避)
学校に「行って失敗する/できない姿を見られる」ことで傷つく見込みが高いと、休むことで学校で“傷つく機会”自体を避けられます。怠けではなく、防衛として働くことがあります。
観察ポイント
🔴 「どうせ無理」「行っても意味ない」が多い
🔴 完璧主義・比較に敏感/失敗後に急に動けなくなる
次の一手(方向性)
🔵 成功単位を極小化し、本人が勝てる難易度にする
🔵 評価軸を「結果」から「準備・挑戦・回復」にずらす
🔵 見られる・評価される場面を調整する(環境調整)
目的④ 関係・家庭内の調整(家族システム上の機能)
休むことで家庭内の衝突が減る/親が強く動くことで安心が成立するなど、家庭の中で「休む」が結果的に機能してしまうことがあります。
ここは「誰が悪い」ではなく、仕組みとして何が起きているかを見る方が現実的に改善が進みます。
観察ポイント
🔴 親が説得・交渉するほど対立が増え、翌日に悪化しやすい
🔴 「今日は特別」が増え、ルールが形骸化しやすい
次の一手(方向性)
🔵 親の役割を「説得」から「環境・ルールの運用」に移す
🔵 ルールを単純化し、例外を増やさない
🔵 学校との窓口・手順を固定化し、家庭の混乱を減らす
目的⑤ 身体・神経系の限界(回復の必要)
睡眠や体調、起立性調節障害などが絡む場合、休むこと自体が「負荷を止めて回復する」防衛になります。この領域は目的論だけで押し切らず、回復設計が優先です。
観察ポイント
🔴 立ちくらみ・頭痛・腹痛・倦怠感が継続する
🔴 休んでも回復しにくい/朝が極端に弱い、睡眠が崩れている
次の一手(方向性)
🔵 回復サイクル(睡眠・起床・栄養・光・活動)を整える
🔵 必要に応じて受診・連携を検討する
🔵 学校負荷を調整し、段階的に戻す(時短・別室など)
🔵 「登校」だけでなく「回復のサイン(起床・食事・活動量など)」を目安にする
目的①〜⑤ まとめ表
| 目的(機能) | 休むことで起きること(増える/減る) | 典型サイン (観察ポイント) | 家庭の“次の一手” (支援の方向性) |
|---|---|---|---|
| ① 苦痛の回避(不安・恥・失敗・刺激) | 苦痛が減る(不安・緊張・評価・刺激) | 特定の教科・先生・場面で悪化/朝が特に強い/休むと落ち着く | 刺激量を下げる(別室・短時間)/段階設計(5分→1コマ)/見通しと逃げ道を合意 |
| ② 安全・安心の確保(安心基地) | 安心が増える(親の関与・落ち着き)+苦痛が減る | 親が近いと動ける/見通し・逃げ道があると安定/休む日に親の関与が増えやすい | 安心の提供を平準化(休む日だけ濃くしない)/家庭対応をルール化/安心の条件を学校側にも広げる(別室・連絡・迎え条件) |
| ③ 自尊心の防衛(比較・評価の回避) | 傷つく機会が減る(失敗・遅れ・恥) | 「どうせ無理」が多い/完璧主義/失敗後に急落 | 評価軸を変更(結果より準備・挑戦・回復)/勝てる難易度に分解/見られる場面の調整 |
| ④ 関係・家庭内の調整(家族システム) | 家が落ち着く/対立が減る/親が動くことで回る | 説得するほど悪化/例外ルールが増える/親の関与が日によって揺れる | 親の役割を「説得→運用」に変更/ルールを単純化・例外を減らす/学校窓口・手順を固定化 |
| ⑤ 身体・神経系の限界(回復) | 負荷が減り回復に向かう(または回復が追いつかない) | 立ちくらみ・頭痛・腹痛が継続/週末も回復しない/朝が極端に弱い | まず回復サイクル(睡眠・起床・栄養・光・活動)/必要なら受診・連携/学校負荷を調整し段階復帰 |
目的論だけでは足りない:次に必要なのが「非認知能力(社会情動スキル)」
目的論が強いのは、「今、何が起きているか」を整理して介入点を作るところです。
ただ、整理だけだと前に進みません。そこで必要なのが非認知能力です。
近年、非認知能力は「社会情動スキル(Social and Emotional Skills)」として国際的にも測定・議論が進んでいます。OECDの調査(SSES)でも、社会情動スキルを子どもの発達と生活に関わる重要な能力として扱い、学校・家庭・環境との関連を整理しています。
また、経済学・社会科学の研究でも、認知能力だけでなく非認知能力が、学業成績に限らないさまざまな結果(生活の安定、人間関係、将来の適応など)と関係することが示されてきました。
みちびきはこう考えます。
- 目的論:休むことで何が「減って」「増えて」いるかを特定する
- 非認知能力:同じ目的(安心、回避、自己防衛)を、より健全に満たす“別ルート”を作る
不登校支援が長期化する背景には、「行く/行かない」の二択では、子どもが今必要としている安心や負担の軽さが確保できず、「行かない」以外の道が見えにくい場合があります。
非認知能力は、その“別ルート”を家庭と学校の両輪で設計するための材料になります。
みちびき式:非認知能力3分類で作る「家庭の支援設計」
ここからは、みちびきの枠組み(3分類)に合わせて、「目的論→非認知能力→具体策」へ落とします。
1)自分を高める力:小さな成功を“設計”する
不登校の背景に「失敗したくない」「恥をかきたくない」が強い場合、突破口は“根性で行かせること”ではありません。
いきなり“登校できたか”を目標にせず、まずは「できたと言える小さな一歩」を決めて積み上げることです。たとえば、
「朝決まった時間に起きられた」「制服に着替えられた」「学校の門まで行けた」「別室で10分過ごせた」など、本人が“これならできそう”と思えるサイズから始めます。
たとえば、こんなふうに考えます:
- 100点の登校ではなく、5分の登校・1コマ参加・別室滞在など
- 「できた/できない」ではなく「試した/準備した/戻れた」を評価する
- 子どもが勝てる土俵(本人が”やれそう”と思える難易度)を作る
ここで育つのは、自己効力感、挑戦の積み重ね、回復力です。
2)自分と向き合う力:感情を扱える形にする
「休む」ことで苦痛を避けているタイプの場合は、不安をゼロにすることより、不安が出たときの対処手順(落ち着き方・逃げ道・次の一歩)を一緒に決めておく方が前に進みやすくなります。
家庭での進め方(3ステップ)
- 体の反応(胸が苦しい、頭が痛い 等)を先に言語化
- 次に気持ち(怖い、恥ずかしい、怒られるのが不安 等)
- 最後に行動(今日は「何分ならいける?」など)
感情を言葉にする力、セルフ調整、見通しの立て方がここに入ります。
3)他者とつながる力:助けを求める・交渉する・境界を作る
「休む」ことで安心を確保したい気持ちが強かったり、家庭や学校での関係がこじれやすかったりする場合は、家庭だけで何とかしようとすると行き詰まりやすくなります。
このタイプで大事なのは、学校側と「安心して過ごせる条件」を先に決めておくこと(例:別室・保健室・短時間・連絡方法・迎えの条件など)と、子どもが「何がしんどい/何が必要」を言葉で伝えたり、助けを求めたりできるようにすることです。
具体例:
- 教室がしんどい日は、別室(保健室)で過ごしてOKにする
- つらくなったら、「休む→落ち着く→戻る(または帰る)」を選べるようにする
- 「行けない」ではなく、「別室なら行ける」「今日は1時間なら行ける」と伝えられる形にする
観察→仮説→支援:親ができる3ステップ(目的論の実装)
最後に、目的論を「家庭で使える形」にするための最短手順を置きます。
ステップ1:観察(休むと“何が減り、何が増えるか”)
減る:不安、叱責、刺激、評価、失敗、対立
増える:安心、睡眠、親の関与、自由、回復
ステップ2:仮説(目的を断定しない)
「きっとこうだ」と決めつけず、仮説として持ちます。目的論は、当てるゲームではなく、介入点を作るための整理です。
特に親だからこそ子がすべてを話さなくても分かってしまうということはありますが、あえてこの内容を聞くときは“分かった気”にならず、本人に直接確認するなどしていけるとよいでしょう。
ステップ3:代替行動(同じ目的を別ルートで満たす)
- 安心が目的なら:安全設計(連絡・別室・迎えの条件)
- 失敗回避が目的なら:成功単位の最小化
- 身体要因なら:回復設計(生活・医療)
よくある誤解:目的論は「責める理論」ではない
目的論は、ときに「子どもが目的をもってサボっている」と誤解されます。
しかし、心理学でいう目的志向(teleology)は、行動を”道徳評価”するものではなく、行動が何に向かって組み立てられているかを理解するための枠組みです。
支援で大切なのは、目的を責めるのではなく、目的を満たす方法を育て直すことです。
まとめ:目的論で整理し、非認知能力で「別ルート」を作る
- 目的論は、不登校の「休む」が果たしている機能を整理し、今の介入点を明確にする
- 非認知能力(社会情動スキル)は、その機能をより健全に満たす”別ルート”を作るための土台になる
- 家庭の役割は、「安心の設計」と「小さな成功の設計」を積み上げ、子どもが自走できる道を作ること
みちびきでは、不登校・母子登校の状況を目的論(維持要因の整理)× 非認知能力(伸ばす力の設計)で組み立て直し、家庭のルール設計、声かけ、学校との合意形成まで含めて、各家庭に合わせて具体化する個別相談を行っています。
「原因は分かるのに、現実が動かない」「家庭での対応を体系立てたい」という場合は、HPのお問い合わせよりご相談ください。
プロフィール

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)
15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)
家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。











