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子どもの”病気との向き合い方”が育てる自立心:家庭教育×非認知能力で考える親のサポート

  • 2025/12/05
  • 2025/11/13

「また親が全部説明してる…」

支援の現場で、そんな場面に何度も出会います。診察室で医師が子どもに質問をする。けれど、答えるのはいつも親。子どもはただ黙って座っているだけ。

持病や疾患を抱える子どもを持つ親として、病気の管理をしっかり行うのは当然のことです。しかし、「すべてを親が把握・管理」してしまうと、成長過程で”任せるタイミング”を失ってしまいます。

そして気づいたときには、中学生・高校生になっても「自分の病気なのに、自分で説明できない」という状況が生まれてしまうのです。

この記事では、家庭教育と非認知能力の視点から、子どもが自分の病気と向き合い、自立していくために親ができるサポートについて考えます。

目次

    病気と共に育つ子どもたち:”守る”だけでなく”育てる”関わりへ

    持病のある子どもを持つ親御さんは、日々多くの責任と不安を抱えています。

    ● 薬の管理は万全か

    ● 症状の変化に気づけているか

    ● 医師への報告は正確にできているか

    ● 学校や周囲への説明はどうするか

    こうした不安から、親が病気管理のすべてを担うのは自然な流れです。けれど、ここに大きな落とし穴があります。

    「守る」ことに必死になるあまり、「育てる」視点を失ってしまう。

    子どもは成長します。いずれは一人で通院し、自分で症状を説明し、治療方針について医師と相談する日が来ます。その時に必要なのは、親の管理能力ではなく、子ども自身の「自分の病気を理解し、向き合う力」です。

    この力を育てるのが、家庭教育の役割です。そして、その力の中核にあるのが、非認知能力—自立、思考力、自己決定力—なのです。

    子どもが話せない診察室:過干渉の延長線上にある”沈黙”

    よく見る光景:医師の質問に親が答える構図

    医師: 「最近、調子はどう?」
    子ども: (黙っている)
    親: 「先週の木曜日から少し咳が出ていて、夜も2回起きました。薬は朝晩きちんと飲んでいますが、食欲が少し落ちています」

    一見、親として責任を果たしている場面に見えます。でも、この瞬間、子どもは何を学んでいるでしょうか?

    「自分の病気について、自分は何も言わなくていい」

    本人は自分の体調を感じているはずです。どこが痛いか、どんな風に苦しいか、何が辛いか。それなのに、言葉にする機会を与えられないまま、診察が終わってしまう。

    なぜ親は代わりに答えてしまうのか

    親が子どもの代わりに話してしまう背景には、いくつかの理由があります。

    1. 焦りと不安

    ● 「時間がない」

    ● 「正確に伝えなければ」

    ● 「子どもでは伝え漏れがあるかもしれない」

    2. 体裁への意識

    ● 「周りの目が気になる」

    ● 「しっかりした親だと思われたい」

    ● 「子どもが答えられないのは恥ずかしい」

    3. 習慣化

    ● 「小さい頃からずっとそうしてきた」

    ● 「今さら変えるタイミングがわからない」

    ● 「子どもも親が答えることに慣れている」

    これらはすべて、親の善意から生まれています。けれど、結果として何が起こるでしょうか。

    「自分の病気」なのに「自分ごと」にできない子どもたち

    診察室では黙っている子どもが、家に帰ってからこう言います。

    「そんなこと聞いてない」
    「勝手に決めないで」
    「私の体なのに」

    これは、親子の信頼関係が壊れたわけではありません。むしろ、“自立のプロセス”が育っていないサインなのです。

    子どもは成長とともに、自分の人生を自分でコントロールしたいという欲求が強くなります。でも、病気管理という最も「自分に関わること」において、その機会を与えられていなければ、当然の反発が起こるのです。

    なぜ”自分で話す機会”が必要なのか

    医師とのやり取りは、単なる情報伝達ではありません。実は、子どもの非認知能力を育てる最高の実践の場なのです。

    育まれる3つの非認知能力

    「なんとなくしんどい」を「頭が重くて、朝起きるのが辛い」と具体的に説明する。この言語化のプロセスが、自己理解を深めます。

    自分の体の状態を観察し、それを言葉にする。この練習を重ねることで、子どもは「自分の体と対話する力」を身につけていきます。

    「この治療法と、こちらの治療法、どちらがいいと思う?」

    医師からこう聞かれたとき、自分で考え、選ぶ。その経験が、人生における大きな決断をする力の土台になります。

    病気があるという事実を受け入れる。でも、それに支配されない。自分の弱さを認めながらも、前を向く力。これは、人生のあらゆる困難に立ち向かう力となります。

    失敗も学び:伝え間違えても「言えたこと」自体が成長

    「うまく説明できなかった」 「医師に聞き返された」 「緊張して言葉が出なかった」

    これらはすべて、貴重な学びです。完璧に説明できることが目標ではありません。自分の口で伝えようとしたこと、その挑戦そのものが成長なのです。

    親が代わりに完璧に説明しても、子どもには何も残りません。子ども自身がつたない言葉で伝えて、「次はもっとこう言おう」と考える。そのプロセスにこそ、教育的価値があります。

    家庭教育としての「医師と話す練習」

    では、具体的にどのように子どもが医師と話す力を育てていけばよいのでしょうか。家庭でできる3つのステップをご紹介します。

    ステップ1:予行演習:「先生に何を伝えたい?」を一緒に考える

    通院の前日や当日の朝に:

    「明日(今日)、先生に会うね。何を伝えたいかな?」
    「この一週間で、体はどうだった?」
    「先生に聞きたいことある?」

    これは、子どもが自分の体調を振り返り、整理する時間です。振り返ることで子ども自身に自分事と捉えられるよう意識を向けていきましょう。

    効果的な問いかけ:

    ● 「いつから?」「どんなふうに?」「どのくらい?」という5W1Hで具体化を促す

    ● 「一番伝えたいことは何?」と優先順位をつける練習

    ● 「心配なことは?」と感情面にも目を向ける

    この対話を通じて、親は「全部答える人」ではなく、「一緒に考える人」になります。

    ステップ2:ロールプレイ:「どうやって言う?」を練習してみる

    家族での練習:

    親:「(医師役)最近、調子はどう?」
    子ども:「えっと…お腹が痛くて…」
    親:「いつから痛いの?」
    子ども:「3日前から…」

    このロールプレイには、大きな効果があります。但し、子ども側が必要と感じなければただ「やらされているだけ」で終わってしまいますから、練習が必要なのかどうかは子どもと相談したうえで決めていきたいですね。

    ロールプレイの3つのメリット:

    1. 緊張の軽減:診察室という「本番」の前に、安全な環境で練習できる

    2. 言葉の選び方を学ぶ:「痛い」だけでなく「ズキズキする」「チクチクする」など、具体的な表現を一緒に考えられる

    3. 質問への対応力:医師から聞かれそうな質問を予測し、答え方を準備できる

    完璧を目指す必要はありません。「こんなふうに言えばいいんだ」という感覚を掴むことが目的です。ですので、この段階で細かすぎるアドバイスや子どものやる気を削ぐような追い詰めるような声掛けはやめておきたいものです。

    ステップ3:振り返り:「話せた?」「伝わった?」を一緒に整理する

    診察後、帰り道や家に着いてから:

    「今日、先生に自分で話せたね。どうだった?」
    「緊張した?」
    「伝えたいこと、伝わったと思う?」
    「次はどうしたい?」

    この振り返りが、経験を「学び」に変える最も重要なプロセスです。

    これらの内容は子ども側から発信してくれるのが一番です。親御さんとしては早く感想を聞きたいと思われるかもしれませんが、子どもから発信があるのかを一旦待ってあげてからこれらを聞いていきたいですね。質問攻めにすると尋問のように捉えられてしまいますので、質問は1つずつ落ち着いてするようにしたいです。

    効果的な振り返りのポイント:

    ● できたことを具体的に認める:「最初の質問、自分で答えられたね」

    ● 感情を言語化する:「緊張したけど、頑張ったね」

    ● 改善点を一緒に考える:「次はもっとゆっくり話してみようか」

    ● 子どもの気づきを引き出す:「自分で話してみて、どう感じた?」

    「できた・できなかった」の評価ではなく、「挑戦したこと」そのものを価値あるものとして扱いましょう。

    親が全部言うよりも、”準備を一緒にする”ことが教育

    ここで大切なのは、親の役割の変化です。

    従来の親の役割: すべてを管理し、代わりに説明する人
    これからの親の役割: 一緒に準備し、見守り、振り返る人

    このシフトこそが、家庭教育の本質です。

    子どもが自分で話せるように「準備を一緒にする」プロセスを繰り返すことで、やがて子どもは一人で準備し、一人で話せるようになります。そして、「病気=自分の問題」として主体的に向き合う習慣が育っていくのです。

    思春期・中学生になっても”話せない子”を生まないために

    小さい頃からの「親任せ」が思春期の大きな反発につながる

    中学生や高校生の支援をしていると、こんな声をよく聞きます。

    「もう親についてきてほしくない」
    「自分のことなのに、全部親が決める」
    「病気のこと、親しか知らないなんておかしい」

    これは、思春期特有の反抗ではありません。長年積み重ねられた「自分で決められない」という不満の表れです。

    幼少期から「親任せ」が続いてきた子どもは、思春期になって突然「自立しなさい」と言われても、そのスキルを持っていません。結果として、強い反発や無力感につながってしまうのです。

    親が信頼して任せる習慣を、幼少期から作る

    自立は、ある日突然できるようになるものではありません。小さな「任せる」の積み重ねが、やがて大きな自立につながります。

    年齢別の「任せる」ステップ例:あくまでも例として捉えていただければと思います。

    幼児期(3〜6歳):

    ● 「痛いところ、指差してみて」

    ● 「先生に『おはようございます』言えるかな」

    小学校低学年(6〜9歳):

    ● 「どんなふうに痛いか、先生に説明してみようか」

    ● 「お薬、いつ飲むか覚えてる?」

    小学校高学年(9〜12歳):

    ● 「今日の診察、自分で先生に説明してみる?」

    ● 「この治療、どう思う?自分の意見を聞かせて」

    中学生以降(12歳〜):

    ● 「診察室、一人で入ってみる?」

    ● 「次の通院、自分で予約してみる?」

    段階的に、無理なく、子どもの成長に合わせて任せていく。この積み重ねが、自然な自立を促します。

    医師とのやり取りは、家庭教育の”リアルな実践機会”

    教科書や参考書では学べない、リアルなコミュニケーション力。それを育てる最高の場が、診察室です。

    ● 初対面の大人(医師)と話す経験

    ● 専門的な内容を理解しようとする力

    ● 自分の状態を正確に伝える表現力

    ● 質問に答え、疑問を質問する双方向性

    これらはすべて、社会で生きていくために必要な力です。焦らずひとつずつ着実に身につけていけるようにしていきたいですね。

    将来、自分で通院・相談・決断できる子を育てるために

    いつか必ず、子どもは一人で病院に行く日が来ます。大学生になって、社会人になって、親元を離れて。

    その時、「自分の病気について何も知らない」「医師と何を話せばいいかわからない」という状態では、子ども自身が困ります。

    今、診察室で親が代わりに話す3分間。
    その3分間を、子どもに渡すだけで、未来が変わります。

    「話す練習」は、今この瞬間から始められます。完璧でなくていい。少しずつ、子どものペースで。そのプロセスこそが、自立への確かな一歩なのです。

    よくある質問とその答え(FAQ)

    A: 理解の深さは年齢に応じて違って当然です。大切なのは、「自分の体のこと」という意識を少しずつ育てることです。

    3歳の子には「お腹痛い?」、小学生には「どんなふうに痛い?」と、成長に合わせた問いかけから始めましょう。小さいお子さんにとっては、診察室という非日常空間に緊張してしまう子も多いものです。気持ちをしっかり受け止め、医師に自分の症状を伝える場なんだよということを教えてあげる所から始めていきたいですね。

    A: その気持ちを否定せず、まずは受け止めましょう。

    「恥ずかしいよね。でも、〇〇ちゃんの体のことだから、先生に伝える練習してみない?ママ(パパ)が一緒にいるから大丈夫だよ」

    無理強いではなく、安心感を与えながら、少しずつ挑戦の機会を作ることが大切です。

    A: 診察の最初に一言伝えてみましょう。

    「今日は本人に話す練習をさせたいので、少しお時間をいただけますか」

    多くの医師は、子どもの成長を応援してくれます。事前に伝えることで、医師も協力しやすくなります。

    A: 命に関わる情報や、治療方針に影響する重要な情報であれば、「補足」として訂正します。

    「本人が言いたかったのは、〇〇ということです」という形で、子どもの発言を否定せず、正確な情報を追加しましょう。

    細かい言い間違いや、表現のぎこちなさは、訂正する必要はありません。それも成長のプロセスです。

    A: 遅すぎることはありません。今日からでも始められます。

    ただし、突然「全部自分で話しなさい」ではなく、「少しずつ一緒に」という姿勢で。「今まで全部ママ(パパ)が話してたけど、これからは少しずつ練習していこうか」と、理由を説明して始めましょう。

    まとめ

    病気の有無に関係なく、「自分で話す力」は生きる力そのものです。

    しかし、持病や疾患を持つ子どもたちにとっては、この力がより一層重要になります。なぜなら、自分の体と一生付き合っていくのは、親ではなく、子ども自身だからです。

    親が”守る”から”任せる”に移る瞬間こそ、家庭教育の真価が問われます。

    ● 子どもを信じて、少しだけ手を離す勇気

    ● 失敗を許容し、そこから学ぶ機会を与える寛容さ

    ● 小さな成長を見逃さず、認める観察力

    これらすべてが、親として、そして家庭教育の実践者として求められる力です。

    通院や診察は、”家庭教育の教材”になります。

    特別なことをする必要はありません。日常の中にこそ、子どもの成長を支えるヒントがあります。次の診察室で、少しだけ子どもに話す機会を渡してみてください。

    その小さな一歩が、お子さんの大きな自立につながります。

    みちびきでは、こうした「家庭内の実践」を通じて、子どもの自立のプロセスを支援しています。

    「どこから始めればいいかわからない」「うまくいかない」と感じたとき、一人で抱え込まないでください。親子が一緒に成長できる関わり方を、私たちは一緒に考えます。

    子どもの自立は、親の手放しから始まります。焦らず、少しずつ、お子さんのペースで。その歩みを、私たちは全力で応援しています。

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    Profile

    佐藤 博

    佐藤 博家庭教育コーディネーター/
    代表カウンセラー(みちびき)

    15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

    鈴木 博美

    鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
    統括ディレクター(みちびき)

    家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。

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