WISCの結果に出てくる言葉をやさしく読む ― 「言語理解・ワーキングメモリ・処理速度」は子どもの何を語るのか
- 2026/02/20
- 2026/02/10

WISCを受けると、報告書には「言語理解」「視空間」「流動性推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」といった言葉とともに数字が並びます。
しかし、多くの親御さんは「結局これは何を意味するの?」と戸惑います。
第3回では、WISCの主要指標をできるだけ分かりやすく解説し、数値の”高い・低い”が日常で何を示しうるのか、どう活かせるのかを整理します。
この回は“難しい検査を読み解くための翻訳”のようなものです。
WISCをどう読むかの大原則
点数は”子どもの価値”ではない
まず最初に押さえておきたいのは、検査の数字は「今の状態」を示す指標であって、将来や可能性を決めるものではないということです。
高い=えらい、低い=ダメ、ではありません。
点数は、子どもを評価するためのものではなく、子どもを理解し環境を整えるためのヒントです。
「平均」と「凸凹」のどちらを見るか
WISCの結果を見るとき、多くの親御さんは総合IQ(全体的な知能指数)に目が行きがちです。
しかし、実は総合IQだけに注目するのは十分ではありません。
重要なのは、得意・苦手のバランス(凸凹)を見ることです。支援のヒントは、この凸凹に表れやすいからです。
たとえば、全体のIQが平均的でも、「言語理解は高いが、ワーキングメモリは低い」というアンバランスがあれば、そこに支援のポイントがあります。
支援は“平均”ではなく“凸凹”から生まれます。
WISCの5つの指標をやさしく解説
ここでは、WISCの5つの主要指標をそれぞれ解説します。
① 言語理解(VC)—「言葉で考える力」
何を測っているか
言語理解は、話を理解する力、言葉で説明する力、語彙や常識的知識を測ります。簡単に言えば、「言葉で考える力」です。
日常でどう見えるか
言語理解が高い子どもは、会話が得意で説明が上手です。言葉で気持ちを伝えることができ、質問に対して適切に答えられます。
逆に言語理解が低い場合、次のような特徴が見られることがあります。
- 指示が伝わりにくい
- 抽象的な説明が苦手
- 「どうしてそう思ったの?」と聞かれても言葉にできない
親ができる支え
言語理解が低めの場合、次のような工夫が有効です。
- 具体例で伝える:抽象的な言葉ではなく、具体的な例を示す
- 一度に言う量を減らす:長い説明は分割する
- 視覚情報を併用:絵・図・写真など、言葉以外の情報も使う
② 視空間(視覚処理)—「見て考える力」
何を測っているか
視空間は、図形を理解する力や空間をイメージする力を測ります。目で見た情報を処理し、頭の中で操作する力です。
日常でどう見えるか
視空間が高い子どもは、パズルが得意だったり、地図が読めたりします。図や絵を見て理解するのが速いです。
逆に視空間が低い場合、次のような特徴が見られることがあります。
- 板書を写すのが苦手(形や配置が崩れやすい)
- 図形問題が難しい
- 漢字の形を覚えにくい
支援のヒント
視空間が低めの場合、次のような工夫が有効です。
- ノートは見本を用意:きれいに書かれた見本を渡す
- 図は色分け:重要な部分を色で区別する
- 文字だけでなく図も併用:視覚情報を補助的に使う
③ 流動性推理(FR)—「考えて解く力」
何を測っているか
流動性推理は、論理的に考える力やパターンを見抜く力を測ります。初めて見る問題に対して、筋道を立てて考える力です。
日常でどう見えるか
流動性推理が高い子どもは、規則性のある問題が得意で、新しい課題にも適応しやすいです。「なぜそうなるのか」を考えるのが好きな傾向があります。
逆に流動性推理が低い場合、初見の問題が苦手で、応用問題になると戸惑いやすいです。
支援のヒント
流動性推理が低めの場合、次のような工夫が有効です。
- 手順を可視化:やり方を図やフローチャートで示す
- 例題→練習→本番の順:段階的に進める
- パターンを繰り返す:同じ形式の問題で慣れさせる
④ ワーキングメモリ(WM)—「一時的に覚えて処理する力」
何を測っているか
ワーキングメモリは、指示を覚えて実行する力、頭の中で情報を保持し操作する力を測ります。いわば「脳の作業台」の広さです。
日常でどう見えるか
ワーキングメモリが低い子どもには、次のような特徴が見られることがあります。
- 3つ以上の指示が覚えられない
- 板書しながら話を聞くのが難しい
- 暗算の途中で数字を忘れる
- 「さっき言ったこと」が抜ける
支援のヒント
ワーキングメモリが低めの場合、次のような工夫が有効です。
- 指示は1つずつ:「〇〇して、△△して、□□して」ではなく、1つずつ伝える
- メモやチェックリスト活用:覚えておくことを書き出す
- 作業を分解:複雑な作業は小さなステップに分ける
⑤ 処理速度(PS)—「素早く正確に処理する力」
何を測っているか
処理速度は、文字や図形を素早く処理する力、手先のスピードを測ります。情報を速く正確に扱う力です。
日常でどう見えるか
処理速度が低い子どもには、次のような特徴が見られることがあります。
- テストが時間内に終わらない
- 書くのが遅い
- 焦るとミスが増える
- 他の子と比べて作業が遅れがち
支援のヒント
処理速度が低めの場合、次のような工夫が有効です。
- 時間延長:テストや課題の時間を増やす
- 問題数の調整:全問解かなくてもよい形にする
- 休憩をこまめに:集中力が切れる前に小休憩を入れる
- 急がせない:「遅い」と責めず、本人のペースを尊重する
アンバランス(凸凹)があるときの読み方
WISCの結果で最も重要なのは、この「凸凹」の部分です。得意と苦手のバランスを見ることで、具体的な支援策が見えてきます。
よくあるパターン① 言語理解↑ × ワーキングメモリ↓
どう見えるか
話は上手だが、指示が抜けやすい。会話は流暢なのに、「さっき言ったこと」を忘れる。
支援のポイント
- メモを活用:覚えておくことは書き出す
- 視覚化:言葉だけでなく、図や表も併用
- 短い指示:一度に複数の指示を出さない
よくあるパターン② 流動性推理↑ × 処理速度↓
どう見えるか
よく考えるが、スピードが遅い。理解力はあるのに、テストが時間内に終わらない。
支援のポイント
- 時間延長:本人のペースで取り組める時間を確保
- 量の調整:問題数を減らす、または優先順位をつける
- 焦らせない:急がせると余計にミスが増える
よくあるパターン③ 視空間↑ × 言語理解↓
どう見えるか
図は得意だが、言葉での説明は苦手。パズルや工作は得意なのに、作文や説明が難しい。
支援のポイント
- 図や絵を活用:言葉で説明する代わりに、図で示す
- 選択肢を用意:「どう思う?」ではなく、「AとB、どっち?」
- 視覚的な教材:文字だけより、図解やイラストが多い教材を選ぶ
数値が”低い=問題”ではない理由
WISCの結果で数値が低く出ると、親は不安になります。しかし、低い指標は「弱点」ではなく、支援の入口です。
苦手があるのは普通のことです。全ての能力が高い子どもはほとんどいません。
重要なのは、低い数値そのものではなく、「どう環境を整えるか」です。
たとえば、ワーキングメモリが低くても、メモやチェックリストを使えば問題なく生活できます。処理速度が低くても、時間延長があればテストで力を発揮できます。
数値は「ダメ出し」ではなく、「こういう工夫があると楽になる」というヒントなのです。
WISCをどう活かすか
家庭でできること
WISCの結果を受け取ったら、次のような工夫を家庭で試してみることができます。
指示を短くする
ワーキングメモリが低めの場合、長い指示は伝わりにくいです。「〇〇して、それが終わったら△△して」と段階的に伝えます。
見える化する
視覚的な情報を活用します。カレンダー、チェックリスト、図、写真など、目で見て分かる形にすると理解しやすくなります。
成功体験を増やす
得意な部分を伸ばし、苦手な部分は環境で補う。これが基本です。小さな成功を積み重ねることで、自己効力感が育ちます。
学校に伝えるとよいポイント
WISCの結果を学校に伝えるとき、次のような形で具体的に依頼すると伝わりやすいです。
「ワーキングメモリが低いので、指示は1つずつお願いします」
「処理速度が低いので、テストの時間を延長していただけますか」
「視空間が苦手なので、板書を写真に撮らせてもらえますか」
数値だけを伝えるのではなく、「〇〇が苦手だから××の配慮を」という形で依頼すると、学校も対応しやすくなります。
WISCを読むときの注意点
心理状態の影響
WISCは、受ける時の心理状態の影響を受けます。
特に不安やストレスが強いと、ワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい傾向があります。
不登校直後など、心理的に不安定な時期に受けた場合、本来の力が発揮できていない可能性もあります。低く出たからといって“その子の本当の力”を否定するものではありません。
一度の結果で決めつけない
検査は「今この瞬間」を切り取ったものです。子どもは成長しますし、環境が変われば力の発揮され方も変わります。
必要であれば、状態が落ち着いてから再検査することも検討できます。
一度の結果で「うちの子はこういう子」と決めつけず、日々の様子と合わせて総合的に理解することが大切です。
次回予告
次回は「WISCの結果をどう学校と共有するか」をテーマに、面談での伝え方や、合理的配慮の頼み方を具体例付きで解説します。
“数字をどう言葉に変えるか”がポイントです。 次回もぜひご覧ください。
プロフィール

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)
15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)
家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。











