WISCの結果を学校でどう活かすか~理想論ではなく、現実的な連携のつくり方 ~
- 2026/02/27
- 2026/02/27

発達検査を受けたあと、多くの親御さんが同じ壁にぶつかります。
「この結果を、学校にどう伝えればいいのだろう・・・」という悩みです。
インターネットで調べると、「合理的配慮の頼み方」「先生への伝え方テンプレ」といった情報はたくさん出てきます。しかし実際に学校との面談に臨んでみると、「なかなか話が進まない」「思ったような対応をしてもらえない」と感じる方も少なくありません。
今日は、理想論ではなく現実に即した話をします。
学校という場所の構造を正しく理解したうえで、子どもにとって本当に意味のある連携をどうつくるかを一緒に考えていきましょう。
学校は万能ではないという前提
最初に、少し冷静な整理をさせてください。これは学校を批判したいわけではありません。学校という場所の現実を理解することが、無用なすれ違いを防ぐための第一歩だからです。
公立学校の通常学級は、基本的に一斉授業を前提として設計されています。
一人の教員が30人前後の子どもたちを同時に見ている環境では、個別対応にかけられる時間や手間には構造的な限界があります。
定期テストも、公平性の観点から全員同条件で実施することが原則です。
加えて、校内のルールや教員の配置、使える制度の範囲も学校によって異なります。
「もっと柔軟に対応してほしい」という親御さんの気持ちはよく分かります。ただ、学校側にも動かせる部分と動かしにくい部分があることを知っておくと、連携の方向性が見えやすくなるでしょう。
だからこそ、「どうすれば動いてもらえるか」よりも、「どこなら一緒に動けそうか」という視点が大切になります。
「よくあるお願い」と現実的な視点
WISCの結果を受け取ったあと、親御さんが学校に相談する内容は、実はとても日常的なものが多いです。
たとえば——
・板書が追いつかない
・宿題に何時間もかかってしまう
・複数の指示が抜けてしまう
・提出物の期限を守れない
・忘れ物が減らない
こうした困りごとは、どれも特別な話ではありません。
多くは、日々の学校生活の中で起きている具体的な場面です。
そして、ここが大切なポイントです。
「どんな配慮をもらうか」よりも、「どの場面が一番しんどいのか」を明確にすることの方が、ずっと重要です。
たとえば、板書が追いつかないのであれば、
・写真撮影を許可してもらう
・ノートの見本を共有してもらう
・プリントで補ってもらう
など、いくつかの選択肢があります。
宿題が何時間もかかるのであれば、
・量を調整する
・優先順位を決める
・期限を相談できる形にする
といった方法も考えられます。
大切なのは、「大きな制度変更」を求めることではなく、日常の中で現実的に動かせる部分を一緒に探ることです。学校生活のことは、学校の先生たちの方がよく分かっていることが多いですから、どういったことができるのかを一緒に考えていけるといいと思います。
面談の前に親が整理すべき3つのこと
学校との面談は、準備なしに臨むと感情が先走ってしまいがちです。「うちの子はこんなに困っているのに」という思いは当然ですが、それをそのままぶつけても関係がうまくいかないことが多いです。
面談前に整理しておきたいのは、次の3点です。
まず、子どもの「強み」です。
WISCの結果には、苦手な部分だけでなく得意な部分も必ず含まれています。
言語理解が高い、視覚的な情報処理が得意といった強みを先生と共有することで、「この子にはこういうアプローチが合う」という前向きな話ができます。
次に、「本当に困っている具体的な場面」です。
「全体的に学校生活がつらそう」という漠然とした訴えより、「板書を写しながら先生の話を聞くことが難しい」「複数の指示を同時に受けると混乱する」という具体的な場面の方が、先生も動きやすくなります。
そして、「家庭で試している工夫」です。家庭でこんな方法を試したら効果があった、という情報は、学校側にとっても参考になります。家庭が主体的に取り組んでいる姿勢を伝えることで、「一緒に考えていきましょう」という協力関係が生まれやすくなります。
現実的な伝え方
では、実際にどのような言葉で伝えるのが効果的でしょうか。「○○してください」という直接的な要求ではなく、「困っている状況 + 検査で分かったこと + 相談したいこと」という流れで伝えると、先生も受け取りやすくなります。
たとえば、処理速度の低さが気になる場合はこのように伝えられます。
「テストで時間が足りないことが多いようです。WISCでは処理速度の数値が低めでした。評価の方法について、何か調整できることがあればご相談させてください」
ワーキングメモリが低い場合はこう伝えられます。
「複数の指示を一度に受けると、途中で抜けてしまうことが多いです。WISCではワーキングメモリが低めでした。指示を一つずつ伝えていただけると、本人もとても助かると思います」
ポイントは、具体的であることと、相談のトーンで話すことです。
「要求」ではなく「一緒に考えたい」という姿勢が、連携をスムーズにする最大のカギです。
学校が対応しやすいこと、難しいこと
学校側の現実をもう少し具体的に整理しておきます。
比較的対応しやすいのは、指示の出し方を変えること、座席の位置を配慮すること、宿題の量を調整すること、授業中に個別の声かけを増やすこと、といった「日常の関わり方の工夫」です。
これらは大きな制度変更を必要とせず、担任の先生の裁量で動きやすい部分です。
一方、難しい場合が多いのは、定期テストの時間延長、出欠の扱いの変更、常時の個別対応といった対応です。
これらは制度や学校全体のルールに関わるため、担任一人の判断では動きにくいことがほとんどです。
この違いを理解しておくことで、「なぜ動いてくれないのか」という不信感を持たずに済みます。
できることとできないことを正確に把握したうえで、現実的な着地点を一緒に探すことが、長く続く連携をつくる基本です。
不登校・行き渋りの場合の共有タイミング
現在、お子さんが不登校や行き渋りの状態にある場合、WISCの結果を学校に伝えるタイミングにも注意が必要です。
学校に行けない混乱が続いている時期は、無理に情報共有を急ぐ必要はありません。
この時期は子ども本人が不安定なことが多く、学校側もどう関わればいいか模索している段階です。
情報を伝えたとしても、すぐに具体的な対応につながりにくいこともあります。
復学を少しずつ視野に入れ始める「準備期」こそが、情報共有の最適なタイミングです。
「こういう特性があるので、こんな配慮があると復帰しやすいと思います」という形で伝えることで、学校側も受け取りやすく、実際の対応につなげやすくなります。
共有する際は、「何のためにこの情報を伝えるのか」という目的を明確にしてから臨むことが大切です。
みちびきが大切にしている視点
連携は“交渉”ではありません。
学校への伝え方を考えるとき、つい「どうすれば認めてもらえるか」「どう主張すれば動いてもらえるか」という方向で考えてしまいがちです。
しかし、不安や要求をそのままぶつけると、関係はかえって硬くなってしまうことが多いのです。
みちびきが大切にしているのは、「一緒に考えたい」という姿勢です。
先生も、子どものことを思って日々動いています。その前提に立ったうえで、家庭として気づいていること、試していること、お願いしたいことを丁寧に伝える。
そのスタンスが、長く続く信頼関係の土台になります。
また、家庭が安定していると、学校との連携はずっとスムーズになります。
親御さん自身が子どもの特性を落ち着いて理解し、家庭での関わりが整っているとき、先生への伝え方にも余裕が生まれます。連携の質は、家庭の土台の安定と深く結びついています。
大事なのは“学校を変えること”ではない
最後に、一番大切なことをお伝えします。
WISCの結果を学校に伝える目的は、「学校を変えること」ではありません。
子どもが安心して力を発揮できる環境を、家庭と学校が一緒につくっていくことです。
そのためにまず必要なのは、家庭の中で子どもの負担を減らすことです。
生活のリズムを整え、子どもが安心できる居場所をつくり、特性に合った関わり方を日々試していく。その土台があってこそ、学校との連携が生きてきます。
WISCの検査結果は、「学校に配慮を要求するための武器」ではありません。
子どもの特性を家庭と学校が共通の言葉で理解するための、いわば「共通言語」です。
その言葉を使って、子どものことを一緒に考えていける関係をつくること。それが、連携の本来の目的です。
配慮はゴールではありません。
子どもが力を発揮できる環境を、家庭と学校でどうつくるか。それが本当の目的です。
そして、その土台をつくるのは日々の家庭の関わりです。
凹凸をどう理解し、どう環境を整え、どう声をかけるか。そこにこそ、子どもの未来を左右する力があります。
次回は、WISCの結果を家庭教育にどう活かすのか。みちびきが大切にしている「非認知能力」とのつながりを整理します。
プロフィール

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)
15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)
家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。











