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WISCの“凹凸”は何を意味するのか ― 指標の組み合わせから見える子どもの困りごと

  • 2026/02/24
  • 2026/02/14

WISCの結果を見ると、「言語理解」「ワーキングメモリ」「処理速度」などの数値に差があることがあります。

この”凹凸”こそが、日常の困りごとを理解する大きな手がかりになります。

第4回では、指標の組み合わせから見えてくる子どもの特徴と、関わり方のヒントを整理します。

なぜ“平均値”より“凹凸”が大事なのか

IQが平均でも困りごとは起きる理由

WISCの結果を見たとき、多くの親御さんは総合IQ(全体的な知能指数)に注目します。「平均の範囲内なら大丈夫」と安心したくなる気持ちは自然です。

しかし実際には、総合IQが平均でも、日常で大きな困りごとを抱えている子どもは少なくありません。

その理由は、能力のアンバランス(凹凸)にあります。

たとえば、言語理解が非常に高くても、ワーキングメモリが低ければ、「話は分かるのにできない」という状態が起きます。この“できる部分”と“できない部分”のギャップが、本人にとっても周囲にとっても混乱や負担を生みます。

また、学校は「全ての能力がバランスよく備わっている子ども」を前提に作られています。そのため、凹凸が大きい子どもは、学校の標準的なやり方では力を発揮しにくいのです。

WISCの本当の使い方

WISCは、数字の高さを競うための検査ではありません。

本当の使い方は、「どこに負担がかかりやすいか」を知るための検査です。

凹凸を見ることで、子どもがどんな場面でしんどさを感じやすいか、どんな支援があれば楽になるかが見えてきます。

代表的な凹凸パターンと日常の姿

ここでは、よく見られる凹凸のパターンと、それが日常でどう現れるか、本人の内側で何が起きているかを整理します。

パターン① 言語理解凸(高め) × ワーキングメモリ凹(低め)

このパターンの子どもは、話を聞いて理解する力は高いのですが、実行段階で躓きます。

  • 話は分かっているのにできない
  • 指示を忘れる(さっき言ったことが抜ける)
  • ケアレスミスが多い
  • 「分かっているなら、なぜできないの?」と言われる

この子は、親や先生の話を聞いて「分かった」と思います。言葉の意味も理解しています。

しかし、その情報を頭の中で保持したまま作業することができません。たとえば、「ノートを出して、教科書の10ページを開いて、名前を書いて」と言われると、最初の「ノートを出す」は覚えていても、残りの2つが抜けてしまいます。

本人は「分かったのにできなかった」と感じ、周囲からは「やる気がない」「怠けている」と誤解されやすくなります。

言語理解が高いため、会話は流暢で受け答えもしっかりしています。そのため、周囲は「この子は理解力がある」と判断します。

ところが実行段階で失敗すると、「分かっているのにやらない」「わざとやっていない」と見えてしまいます。

しかし実際には、「分かる」と「実行する」の間に、ワーキングメモリという橋が必要で、その橋が弱いのです。

学校に依頼する前に、家庭でできる工夫から始めます。

  • 内容を分割する:「〇〇して、△△して、□□して」ではなく、「まず〇〇して」→終わったら→「次は△△」と1つずつ伝える
  • 書いて残す:口頭だけでなく、メモや付箋に書いて貼る。冷蔵庫、机、玄関など目につく場所に置く
  • チェックリストを作る:朝の支度、帰宅後のルーティンなど、繰り返す作業はリスト化する
  • 記憶に頼らせない:「覚えておいてね」ではなく、「どうしたら忘れないかな」と声をかけ考えさせる

小さいお子さん相手だとメモやリストを作成するのは親が代わりにやってあげる流れでも構いませんが、いつまでも“親が代わりにやってくれる”と子どもが勘違いしてしまうと、そうでない場面(学校などの社会)で困る場面は増えてしまいます。
子どもに考えさせながら「メモを残した方が忘れない」という経験をさせ、自分でその行動がとれるようサポートしてあげられると更によいでしょう。

パターン② 流動性推理凸(高い)× 処理速度凹(低い)

このパターンの子どもは、考える力は高いのですが、作業スピードが遅い傾向があります。

  • 分かっているのに遅い
  • テストが時間内に終わらない
  • 急がされると崩れる
  • 「もっと速くやりなさい」と叱られやすい

この子は、問題を見て「どう解くか」はすぐに分かります。論理的に考える力があるからです。

しかし、それを紙に書く、手を動かす、という作業に時間がかかります。頭の中では答えが出ているのに、手が追いつかない状態です。

テストで時間が足りなくなると、焦って余計にミスが増えます。本人は「分かっているのに時間が足りない」というもどかしさを抱えています。

思考力があるため、授業中の発言や質問は的確です。そのため、周囲は「この子は頭がいい」と感じます。

ところがテストや宿題になると遅い。すると、「やる気がない」「集中していない」「ダラダラやっている」と見えてしまいます。

しかし実際には、思考と作業の速度にギャップがあり、本人も苦しんでいるのです。

  • 時間を気にしない環境を作る:宿題に制限時間を設けず、「終わるまでやればいい」というスタンスにする
  • 量を減らす:全問解かなくてもよい形にする。先生と相談して、宿題の量を調整する
  • 速さを評価しない:「遅い」と責めず、「丁寧にやったね」「よく考えたね」とできた事実を伝える
  • 書く量を減らす工夫:選択肢で答える、口頭で答える、タイピングを使うなど

本人(子ども)がどこまで困り感を感じているのかによってサポートは異なりますが、学校では時間的制限があることが殆どですから、家庭では時間的制限を設けるときとそうでない時の両方あるといいでしょう。時間制限がないという状況は子どもにとってストレスがかかりにくい状態ですし、お出かけの際などはどうしても時間制限がある場面が出てきますので、そこで練習を少しずつしていけると学校生活でも活かしていけるのではないでしょうか。

パターン③ 視空間凸(高い)× 言語理解凹(低い)

このパターンの子どもは、視覚的な情報処理は得意ですが、言葉での理解が苦手です。

  • 口頭での説明が分からない
  • 作文や説明が苦手
  • 図形や工作、パズルは得意
  • 「話を聞いていない」と誤解される

この子は、図や絵を見れば一瞬で理解できます。空間的な把握が得意だからです。

しかし、言葉だけで説明されると、情報が頭に入ってきません。「〇〇をして、それから△△をして」と言われても、言葉が流れていくだけで、何をすればいいか分からなくなります。

本人は「何を言っているか分からない」と感じ、周囲からは「聞いていない」「集中していない」と見られてしまいます。

視空間が高いため、図形問題や工作は得意で、作品を作ると「すごいね」と褒められます。

ところが口頭の指示が通らない。すると、「やればできるのに、話を聞いていない」「反抗的」と見えてしまいます。

しかし実際には、言葉という情報形式が合っていないだけで、見せれば分かるのです。

  • 図で説明する:言葉だけでなく、絵や図を使って伝える。簡単なイラストでもOK
  • 選択肢を提示する:「どう思う?」ではなく、「AとB、どっち?」と選ばせる
  • 見本を見せる:「こうやって」と言葉で説明するより、実際にやって見せる
  • 言葉で責めない:「ちゃんと聞いて」ではなく、「こうだよ」と見せて伝える

視覚優位のお子さんは図で説明することも効果的ですが、メリット・デメリットで分けた表などを用いると視覚でどちらの方が多いのか等が頭に入りやすいということもあります。図や絵だけに囚われず、どういう表記が分かりやすいかを親子で見つけていけると、それを自然と子どもが学校でも活用していく流れは取れるのではないかと考えます。

パターン④ ワーキングメモリ凹(低い) × 処理速度凹(低い)

このパターンの子どもは、複数の能力が低めで、日常生活全般に負担がかかりやすい状態です。

  • 学校がとても疲れる
  • 宿題に時間がかかる
  • 学習そのものを回避しやすい
  • 「何をやってもできない」と感じやすい

この子は、情報を保持する力も、処理する速度も両方低い状態です。

学校の授業は、「聞いて、見て、書いて、覚えて」という複数の処理を同時に求められます。しかし、この子にとってはそのすべてが負担です。

1つずつならできるのに、学校では複数のことを同時に求められるため、常にキャパシティオーバーの状態になります。

結果として、疲れやすく、学習そのものを避けたくなります。

このパターンは、他のパターンと違い、「できる部分」が目立ちません。全体的に遅く、できないことが多いため、「全般的に能力が低い」「やる気がない」と見られやすくなります。

しかし実際には、処理容量が少ないだけで、時間をかければ、負担を減らせば、できることは増えます。

  • 作業を減らす:宿題の量を調整する、問題数を減らす。全部やらなくてもいい環境を作る
  • 休憩を入れる:10分勉強したら5分休憩、など、こまめに休む。集中力が切れる前に止める
  • 成功体験を優先する:「できた」という経験を増やす。難しすぎる課題は避ける
  • 1つずつやる:同時に複数のことをさせない。1つ終わったら次、という流れにする

「できない」という点にばかり焦点を当ててみてしまうと、自己肯定感も下がりますしやる気も下がります。マルチタスクを求められやすい世の中ですが、そもそも脳にとってはマルチタスクは負担が多いとされている事実を多くの方が認識する必要はあると考えています。
できることを少しずつ増やしていく、維持していくという流れも大切ですので、是非その流れを意識して親子で取り組んでいただければと思います。

凹凸が大きいほど二次障害が起きやすい理由

凹凸が大きい子どもは、周囲から誤解されやすく、自己評価が下がりやすい傾向があります。

努力不足と誤解される

「できる部分」があるため、「やればできるのにやらない」「怠けている」と思われやすいです。

しかし実際には、できない部分に大きな負担がかかっており、本人は十分に努力しています。

この誤解が積み重なると、子どもは「自分は怠け者だ」「ダメな人間だ」と感じるようになります。

自己評価が下がる

「みんなはできるのに自分だけできない」「頑張っているのにできない」という経験が積み重なると、自己評価が下がります。

「どうせ無理」「やっても意味がない」という諦めにつながり、学習そのものを回避するようになります。

不登校につながることもある

凹凸が大きいまま適切な支援がないと、学校での失敗体験が積み重なります。

「学校に行くと失敗する」「学校は苦痛の場所」という認識が固まると、不登校や学習回避につながることもあります。

だからこそ、凹凸を早期に理解し、家庭から適切な環境調整を始めることが重要です。

凹凸は“弱点”ではなく“設計図”

最後に強調したいのは、凹凸は「弱点」ではなく「設計図」だということです。

凹凸は治すものではありません。それは子どもの特徴であり、個性の一部です。

重要なのは、凹凸を理解し、それに合わせて環境を整えることです。

たとえば、ワーキングメモリが低くても、メモやチェックリストを使えば問題なく生活できます。処理速度が低くても、時間を気にしない環境があれば、力を発揮できます。

凹凸を「負担を減らすための地図」として活用することで、子どもは自分の力を発揮しやすくなります。

学校に配慮を求める前に、まず家庭でできる工夫から始める。それが、子どもにとって最も安全で、効果的なスタートです。

次回予告

次回は、WISCの結果を学校にどう伝えるかを整理します。

家庭での工夫が安定してきたら、次は学校との連携です。凹凸を理解した上で、どう学校に伝え、配慮につなげるかを具体例付きで解説します。次回もぜひご覧ください。

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Profile

佐藤 博

佐藤 博家庭教育コーディネーター/
代表カウンセラー(みちびき)

15年間、不登校や母子登校のご家庭を訪問支援。子どもの「自分で社会とつながる力」を育む土台づくりに尽力。文科省協力者会議委員やいじめ対策委員も歴任。「傾聴で終わらせない、変化につながる関わり」が信念。お子さんへの直接支援に加え、ご家庭の課題を可視化し、親御さんと共に解決するスタイルが特長。家庭教育等の講演・研修も多数。「家庭からはじまる社会的自立支援」を推進します。

鈴木 博美

鈴木 博美家庭教育コーディネーター/
統括ディレクター(みちびき)

家庭教育アドバイザー・訪問カウンセラーとして9年間、不登校や親子関係に悩むご家庭を支援。2025年、支援10年目を迎えます。全国の家庭への直接支援を通し、親御さんとの対話で子どもの社会的自立をサポート。家庭内の会話や関わり方を可視化し、非認知能力を育む声かけや実践的なアドバイスで親子に伴走。保護者向けセミナーや講演も多数。「支援に迷う方こそ安心して相談できる存在」を目指し、家庭の再構築に丁寧に取り組みます。

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